テスト前に年号を何十回も書いたのに、本番では前半しか出てこない。 年号や地名のように意味でつながらない情報は、何度書いても、思い出す手がかりが残りにくいからです。 このページでは、覚えにくい語だけを物の姿に変え、自分の家の決まった10か所にありえない形で置き、頭の中で歩いて取り出すやり方を勧めます。
ひとことで
記憶術は、文字や数字のままでは覚えにくい情報を、思い浮かべやすい物の姿に変え、すでによく知っている場所や物にくっつけて覚える方法です。 やり方の名前は本によってさまざまですが、勉強法と記憶術の本の多くは、土台がこの2つの作業だと説明しています。
このページの手順は、その中でも多くの本が紹介している「場所法」です。 自分の家のようによく知っている場所に、順番を決めた目印を作り、そこに物の姿を1つずつ置いていきます。 記憶の宮殿、ジャーニー法とも呼ばれます。
使いどころは、理由でつなげられない情報です。 出来事の理由や仕組みのように「なぜ」と問えば答えが出るものは、精緻化で知っていることとつなぎます。 年号、地名、元素記号、英単語のつづり、並ぶ順番のように、問うても理由が出てこないものに記憶術を使います。
なぜ効くか
物の姿は文字より思い浮かべやすく、よく知っている場所の並びが、次に何を置いたかを呼び出す手がかりになるからです。 ただ、効果の強さは、教科書を閉じて見ずに思い出す練習(アクティブリコール)ほどはっきりとは確かめられていません。
文字や数字より、物の姿のほうが思い浮かべやすい
「青森」という文字を見ても、頭の中にはほとんど何も浮かびません。 「人の背より大きなりんご」なら、色も形もすぐに浮かびます。
記憶術の本の多くは、覚えにくい語をまず思い浮かべられる物の姿に変えることを、すべての技の出発点にしています。
人は、よく知っている場所の並びを忘れにくい
自分の家の玄関から台所までの道順は、覚えようとしなくても言えます。 場所法は、この得意な並びを、覚えたい語の置き場所として借ります。 目印を順にたどれば、そこに何を置いたかを1つずつ拾えるので、順番ごと思い出せます。
平田直也『世界最強記憶術 場所法』が紹介している研究では、場所法で40の語を1つずつ覚えた人が、その直後にも翌日にも、大部分を思い出せました。
オークリーの『直感力を高める 数学脳のつくりかた』が紹介している研究でも、大学の構内を置き場所にして45の項目を覚えた人が、1〜2回歩く練習をしただけで、ほとんどを思い出せました。 どちらも、なじみのある場所の並びが、思い出す手がかりとして働くことを示しています。
ありえない姿にすると、驚いた感じごと残る
玄関にりんごが置いてあるだけの場面は、ありふれていて、すぐにほかの記憶にまぎれます。 ドアにはさまって動かない巨大なりんごなら、思い浮かべたときの驚きごと残ります。 大きくする、数を増やす、動かす、自分が笑ってしまう姿にする、という工夫は、多くの本が同じように挙げています。
効果の強さは、閉じて思い出す練習ほど確かめられていない
安川康介『科学的根拠に基づく最高の勉強法』は、勉強法の効果を比べたダンロスキーらの報告書を紹介しています。 その報告書では、語を物の姿に変えて覚える記憶術は、小学生から大学生まで効果がありました。
一方で、慣れるまで練習が要ること、姿にしにくい語があること、長く残るかがはっきりしないことから、閉じて思い出す練習より一段低く評価されています。
記憶術の本の多くも、姿を置いただけでは長くは残らず、くり返し取り出す必要があると書いています。 だから、記憶術はほかの方法では覚えにくい語に絞り、置いた後は閉じて取り出す練習とつなげます。
やり方
このページが勧めるのは、意味でつながらない語だけを選び、家の10か所の目印に物の姿を置いて、頭の中で歩いて取り出す流れです。
- 教科書を一通り読んで分かってから、意味でつながらない語だけを選ぶ。 理由が言えるものは精緻化に回し、年号、地名、並ぶ順番などを10個まで書き出します。
- 玄関から家の中を歩く順に、10か所の目印を決める。 玄関のドア、靴箱、洗面台のように行ったり来たりしない1本の道にし、似た物を並べません。紙に書いたら、目を閉じて目印だけを順にたどれるか確かめます。
- 覚える語を、手に取れる物の姿に変える。 青森ならりんごのように、その語から最初に浮かんだ物で構いません。
- 1か所に1つずつ、ありえない形で置く。 大きくする、数を増やす、動かすなどして、自分が驚く場面にします。
- 頭の中で玄関から歩いて物を取り出し、元の語に戻して紙に書く。 出なかった目印は、もっと大きく、おかしな姿に作り直します。翌日と1週間後に、見ずにもう一度書き出します。
東北6県なら、家の6か所に県の物を置いていく
青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島の順で東北6県を覚えるなら、家の目印の最初の6か所を使います。 県の物は、名産の物か、県名の字から1つで思いつく物にします。
玄関のドアには人の背より大きなりんごがはさまり、開けると転がり落ちてきます。 靴箱を開けると、靴の代わりに岩がぎっしり詰まっています。 洗面台の中に小さなお城が建ち、顔を洗うと城壁に水がかかります。
冷蔵庫を開けると、秋の田んぼの稲穂があふれ出します。 ソファの上には山がそびえ、座る場所がありません。 ベッドの布団をめくると、福袋が天井まで積まれています。
置き終えたら、目を閉じて玄関から歩きます。 ドアのりんごから青森、靴箱の岩から岩手、と元の県名に戻しながら紙に書き、6つ書けたらその日は終わりです。
年号は語呂の文を作らず、数字を物に変えて出来事にくっつける
年号を語呂の文で覚えると、文そのものをもう1つ覚える手間がかかります。 文の場面は思い浮かべにくく、出来事と結びつけにくいと指摘する本もあります。 そこで、数字を物に変えて、出来事の人物に直接くっつけます。
この例では、数字を2けたずつに区切り、読んだときの音から物を1つずつ決めます。 語呂の文は作らず、2けたに物1つを当てるだけです。
1549年のザビエル来日なら、15はイチ・ゴで「イチゴ」、49はヨン・クで「四駆の車」です。 ザビエルがイチゴを積んだ四駆の車で港に乗りつける場面を思い浮かべれば、場面から年号を取り出せます。 数字をどの物にするかは、毎回同じ読み方で決めておくと、迷わずに変えられます。
置いた後は、閉じて取り出す練習と日をあけた取り出しで残す
その日のうちに書き出せても、置いただけの姿は日がたつと薄れていきます。 取り出す日の間隔は本によって違いますが、このページではアクティブリコールのページと同じ「翌日」と「1週間後」にそろえます。 その後の間隔は、分散学習のページで決め方を説明しています。
何度か取り出すうちに、目印をたどらなくても語が出てくるようになります。 そうなったら、同じ10か所を次の内容に使って構いません。
うまくいかないとき
物の姿が浮かばない語は、そこから思いつく物を1つ決める
「民主主義」のような抽象的な語は、そのままでは姿になりません。 投票箱のように、その語から思いつく物を1つ決めて、それを置きます。 意味から何も浮かばないときは、語の音を区切って、似た音の物を探します。
取り出すと空っぽの目印は、もっと大きく、おかしく作り直す
目印まで来ても何も出てこないのは、置いた姿が弱かった所です。 大きさを何倍にもする、数を増やす、動かすなどして、もう一度置き直します。
目印の順番があやふやなときは、物を置く前に目印だけをたどる
目印の順番が怪しいまま物を置くと、取り出すときに飛ばしたり、順番が入れ替わったりします。 物を置く前に、目を閉じて10か所を玄関から順に言えるまで歩き直します。
姿を作るのに時間がかかるときは、最初に浮かんだ物を使う
色や細部まで描き込もうとすると、1つに何分もかかります。 最初に浮かんだ物で十分で、ほかの人に通じなくても、自分が思い出せれば構いません。 慣れてくると、変える速さは上がっていきます。
よくある失敗
- 理由が言える内容まで記憶術で覚えようとする。「なぜ」と問えば答えが出るものは、精緻化で理由ごと覚えます。
- 目印にふつうに置くだけで済ませる。ありふれた場面は、すぐにほかの記憶にまぎれます。
- 似た目印を並べる。2つのトイレや同じ形のスイッチは、どちらに何を置いたかで迷います。
- 置いただけで終える。その日のうちに閉じて書き出し、翌日にもう一度書き出します。
- 人に聞かせてもおもしろい話を作ろうとして、時間をかける。姿は自分が思い出せれば十分です。
関連する方法と悩み
覚え方は、覚える情報の種類で使い分けます。